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「じゅんぺーい。購買に行かねえの?」  高幡順平の取り巻きで、朝礼の時いの一番に俺を邪魔者扱いした木元という男がドアの前に立ち、怪訝な目をこちらに向けていた。 「馬鹿。見て分かんないのか、取り込み中だ。邪魔するな」  高幡順平は邪険に追い払う。取り付く島が無いと分かった木元はやれやれと肩を竦めた。 「はいはい。悪かったな、ごゆっくり」  他の男子と連れ立ち、教室を出て行ってしまう。  あっさり諦めるな。こいつを連れて行け!  叫びたかったが、高幡順平に詰め寄られて声を出せなかった。 「樋口……」  近すぎ、狭すぎ。嫌いな顔が迫ってくる。  何故か怖くなって目を固く閉じていた。視界をシャットアウトしても体温が近いのが分かる。触れるか触れないかの距離に恐れをなし、窓に張り付いた。  ……ふっ。  力が抜けるような笑みが聞こえた。  唇に何かが当たり、びくんと竦み上がる。その後で鼻の奥に甘い香りが届いた。  恐る恐る瞼を上げると、俺の嫌いな高幡順平が俺の大嫌いな顔で笑っていた。 「そう怯えんなって」  そして俺の口の中にガムを押し入れる。 「んぐっ」 「俺にもメールを打ってね」  高幡順平は俺のワイシャツの胸ポケットを指先で引っ張り、そこに携帯を落とした。金属の冷たさが胸に当たりヒヤリとする。  高幡順平が教室から出ていった後も、俺は暫く呆然として動けなかった。
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