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無言のまま家に着くのはさすがにマズイ。
階段を下りきり並んで歩けるタイミングで話しかけた。
「バイト忙しいんでしょ? 大丈夫だった?」
当たり障り無い話題を振るとともに、さり気なく気遣いを装ってみたのだが、瑠珂はまるで俺の邪な心を見透かすように流し目でジロリと睨んできた。
「……お前、アイツらに明日会うことを話しただろ」
アイツらとはサクラ達のことだろうか?
「うん。そうだね」
話したというかメールを受け取って大喜びした時にアイツらが居合わせたというのが正しい。まあ、居ても居なくても俺は喜びを吹聴しただろうから結果は同じか。
ドギマギしながら瑠珂の反応をうかがうと、案の定溜息を吐かれた。
「明日だとアイツらがくっついて来そうだったから、無理を言って休みを今日に変えてもらった」
あー、確かにね。そうだよね。間違いなく邪魔されるだろうし、これでもかってほど冷やかされるだろうね。
「ご、ごめんなさい……」
軽率な自分を反省して謝ったが、瑠珂はまっすぐ前を見据えるだけで返事をしてくれない。汚れた雨水が跳ね返るのも厭わないほど大きな歩幅で進む。
やっぱり、怒ってるのかな……。
確かめられないまま、そして結局無言のまま、家に着いてしまった。今日という日を楽しみにして馬鹿みたいに浮かれていた一週間前の自分が恨めしい。
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