瑠珂と順平のその後①

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 玄関のドアを開けて瑠珂を先に通す。傘の水滴を払ってから中に入ると、瑠珂は玄関土間で呆然と突っ立ったまま家の中を見渡していた。  どうしたんだろう。何か変わったところでもあるだろうか。家は以前のままで、帰ってからひと通りは掃除をしたけどまだ埃臭かったかな。 「瑠珂?」  呼びかけると、瑠珂はハッと驚いた。パーカーが脱ぎ、次に靴を脱いで玄関を上がる。 「えっと……」  廊下でまた立ち往生してしまう。  2階の自室に案内してもいいが、なんだか下心が無くても有るような印象を与えそうで言い出せない。あと、瑠珂に手を出さず我慢できるか自分に自信がない。かと言って、リビングに案内するのも味気ない気がする。広い空間は落ち着かないし、それこそ何をしていいのか、何を話していいのか分からない。  そんなことを悶々と考えていたせいで、瑠珂に「なぁ」と話しかけられて今度は俺がビックリさせられた。 「タオルを借りてもいいか?」 「あ、あぁ……待ってて。すぐ持ってくる」  瑠珂は玄関マットの上で濡れたらしい靴下を脱ぎ始めていた。野良猫のような気の強さを見せる一方で、瑠珂は周りの反応に敏感で、細かい所に気配りができる。そういう一面を同級生で知っているのは俺だけだと以前は優越感を抱いていたが、1年離れていた間に皆も気付いているだろう。ごく一部であっても瑠珂と信頼関係を築く男子や、ぞっこん惚れちゃう女子がいるみたいだから。
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