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「待って!」
ミツルは慌てて呼び止めた。
(関係ないって、そんな……。家族なのに……)
瑠珂は襖を開けっ放しにして自分の部屋に消えた。暫くしてコートとショルダーバックを抱えて戻ってくる。頭にはチャコールグレーのニット帽を被っていた。
「何? バイトに行かなきゃいけないんだけど」
「バイトは夕方からでしょ?」
暢気な口調で確認するのはサヤカだった。今はまだ13時を回ったところで出発には早い。
「バイトの前に寄るところがあるから」
そう言って瑠珂は、ショルダーバックに財布と携帯を押し込み、フード付のパーカーの上にチェスターコートを羽織って早々に出掛ける身支度を整えてしまう。
「待って! 話はまだ終わってないんだ」
引き留めるミツルの斜め前では、サヤカが桃色の爪にトップコートを塗りながら「行ってらっしゃ~い」と言っている。
「サヤカさん! 今は爪の手入れをしている場合じゃないから! もう時間がないんだよ!?」
ミツルに注意されてもサヤカはホヤっとした顔で首を傾ける。
「瑠珂が好きにしていいって言ったからOKってことよ。急いで籍を入れなきゃいけないの?」
「そうじゃなくて!」
仕事と興味があること以外は基本のんびり気質のサヤカに、ミツルはつい声を荒げてしまう。今からこんな状態で大丈夫なのかと、瑠珂が呆れた視線を向けていることに二人は気付いていない。
「俺、再来週の日曜しか空いてないって言ったよね? まだあのことを話してないんだろ?」
「あー、あのことね!」
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