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(しがらみ……、愛情……、我慢……、感謝……)
様々な思いが走馬燈のように蘇り、ミツルの表情は暗くなる。
「卒業したら就職するの?」
サヤカが呑気な声で尋ねる。瑠珂は苛ついたように「そうだよ」と答えた。
「え~。大学に行くかと思ってお金を貯めてたのに」
テーブルに頬杖をついていた瑠珂の肘が横滑りする。
「はあ!?」
「ヨシノがね、『瑠珂はアンタと違って出来がいいんだから将来のためにちゃんと貯えときなさい』って言うから身を削ってコツコツ貯めたのよ。あのお金どうするの?」
「そんなもん知るか!」
またまた予想外の珍事が起こった。ミツルの暗い記憶は母子の騒ぎに吹き飛ばされてしまう。
「勉強嫌いの俺が大学なんて行くわけないだろ!」
「ヨシノが『瑠珂は合理主義だから、世の中の仕組みが分かれば絶対に進学する』って言ってたもん!」
「お前はなんでもかんでもヨシノ、ヨシノって。現実を見ろよ! 進級するのがやっとの俺が進学なんて考えるか! それこそ不合理だ!」
「瑠珂に言われたくないわよ! ヨシノの言うことしか聞かないくせに!」
「当たり前だ! ヨシノに逆らえるわけがないだろ!」
二人の言い争いを見てミツルは思う。
(ヨシノって誰だろう。誰か分からないけど関わらない方がよさそうだ……)
ミツルの頭に危険キーワードとして『ヨシノ』がインプットされた。
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