2310人が本棚に入れています
本棚に追加
サヤカは頬を膨らませて立ち上がると、メイクボックスを持ち出して中身を広げ始めた。数え切れない化粧品の中から黒地の小さなポーチを取り出して瑠珂の前に投げる。
「どう生きるかは瑠珂の自由よ。でもアタシが汗水流して貯めたお金を無駄にしないで」
「媚び売っての間違いだろ」
「どっちでもいいわよ」
瑠珂は皮肉を言いながらポーチの中身を取り出す。通帳が一冊だけ入ってた。口座名義はサヤカではなく『ルカ』だ。
「アンタが貯めたはした金で通えるほど大学は甘くな…………」
通帳を開いた瑠珂が固まった。気になったミツルは瑠珂の横に回り込んで手元を覗いた。
(エ……!?)
ミツルは目を疑った。預金通帳に8桁の数字が並んでいるのを初めて見た。
「サヤカさん、これ家が買えるよ!」
「だってヨシノが2千万円以上かかるって言ったもん。ヨシノはあれでも国立大を出てるのよ」
「いやいや、ヨシノさんが誰か分からないから。大学へ通うのにそんなにかかっていたら一般家庭は破産しちゃうよ」
ミツルに指摘されたサヤカはますますふて腐れた。子供みたいに頬をパンパンに膨らませてそっぽを向く。
(でもまあ、瑠珂くんは嬉しいだろうな……)
感動に浸っているかと思われた瑠珂が、通帳を見つめたままポツリと溢した。それは生憎と感謝でも照れ隠しの悪態でもなかった。
「うちはお前の浪費やヒモ男達のせいで超絶貧乏なんだって思ってたけど。あったんだな、金……」
なんだか悲しそうだ。
「これなら俺は野球とかサッカーとかやってもよかったんじゃね? 別に興味ないけどさ。テレビゲームとかスニーカーとか欲しいもの我慢して損した。今はバイト代でどうにかなるからいいけど……」
瑠珂の嘆きと苦労が伝わってきてミツルは心を痛める。サヤカはというと、口と眉をへの字に曲げていた。瑠珂の悲しんでいる理由が分からないようだ。
最初のコメントを投稿しよう!