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「瑠珂くん! 今からだって遅くないからやりたいことをやりなよ! サヤカさんの貯えがあれば卒業後は進学だってできる。大学じゃなくても短大や専門学校でもいいんだし。瑠珂くんの未来は無限大に広がってるよ!」
ミツルは重たい空気を吹き飛ばすように明るい声を出した。内心はもの凄くハラハラしている。そのお金ですぐにでも一人暮らしを始めると言われかねない。
「……進学はしない。卒業後は就職する」
瑠珂は通帳を閉じると、それをサヤカの前に押し返した。
「高校を卒業してまで勉強はしたくない。前から働くって決めてたんだ。俺じゃなく生まれてくるガキに投資しろよ。お前だけだと心配だけど、ミツルがいれば大丈夫だろ」
(瑠珂くん……?)
「仕事って何をするの?」
サヤカは不満そうに唇を尖らせる。
「卒業は2年後だからまだ分からない。探してみないと何があるのかサッパリ」
ミツルは不安を覚えた。
(瑠珂くんはやりたい仕事に就くのではなく、勤められる仕事に就こうとしている……)
「職種とか決めてないの?」
「なんでもいい。安定した仕事なら」
瑠珂の投げ遣りな発言に、ミツルの握りしめた拳は震えていた。
(なんでも、いいわけがない……)
ミツルは慎重に言葉を選んだ。
「やりたいことが決まっていないなら進学の選択肢があってもいいんじゃないかな? 将来の大事なことなんだから急いで決めることはないよ」
(男にとって仕事は人生そのものだ。身体と頭が動くうちは何があっても働き続けなければいけない。何があっても、生きるために……)
「何か勘違いしてないか?」
ミツルは瑠珂の冷めた双眸に気付き尻込みした。どんな正論も粉砕してしまうような得体の知れないエネルギーがそこにあった。
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