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「俺は早く家を出て自立がしたいんだ。それには金がいる。だから就職するんだよ。進学なんて金と時間の無駄だろ」
「高卒だと就職先は限られてしまうよ。進路はもっと慎重に考えた方がいい」
瑠珂は顔を歪めて溜息を吐く。けんもほろろな態度だ。
「四大を出たってブラック企業にしか勤められず安月給で長時間労働させられる時代だぞ、考えたところでどうにもならないだろ。やれる仕事をやるしかないんだ。仕事に質や量を求めたら自分が堕落するだけだからな」
「………」
ミツルは返す言葉がなかった。
(これほどの覚悟があったら、俺は無駄な時間を過ごさずに済んだのかな……)
常識に囚われすぎて頭が固くなっていたのかもしれない。ミツルが心配しなくても、瑠珂は社会の厳しさを覚悟しているようだ。
「そうだ! 映画関係の仕事にしたら? アンタ映画を観るのが好きじゃない」
サヤカは手を叩き、突拍子のない発言をする。
「おい、ババア。勝手に俺の将来を決めるな。それになんだ映画関係って、ざっくり過ぎるだろ。俺は安定した仕事がいいの。思いつきでいい加減な事を言うのは止めてくれ」
「映画を作るのだって立派な仕事じゃない」
「そうだけどさ……」
瑠珂は額を押さえる。
「映像関係なんて労働時間と賃金が合わない代表格じゃねえか。俺はそこまで自分を酷使するつもりはないぞ」
映画を作る仕事がどんなものか分からないが、ミツルも瑠珂の考えに賛成だった。
サヤカは納得できないのか、難しい顔で首を傾げる。
「どんな仕事でも辛いときや悲しいときはあるんだから、どうせ苦労するなら好きな事ですればいいのに……」
桃色に光る指先が通帳の角を弾く。それはくるくると回転しながらテーブルの上を滑り、瑠珂の近くで動きを止めた。
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