伏線回収③~「ミツルの場合」

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「思いつきでもいいじゃない。どうなるか分からない先の事を考えて怖がっても仕方ないし。生きる気力があれば人生は何度でもやり直せるものよ」  サヤカは不敵に微笑む。  瑠珂の指摘どおりいい加減で無責任な発言であるが、それでもミツルの心は揺さぶられた。 「ちょっと眠くなったから横になるわ」  サヤカは椅子から立ち上がる。しかし、歩き出してすぐに口元を押さえた。 「サヤカさん!?」 「大丈夫。なんでもない」  サヤカは気丈に振る舞う。駆け寄るミツルを止めて自室に消えた。 (俺は何もできないな……)  ミツルがキッチンに戻ると、そこに瑠珂の姿はなかった。コートもショルダーバックも消えているので出掛けてしまったようだ。  静かになったダイニングテーブルの椅子に腰掛けるミツルの背後で、玄関のドアが開いた。 「おい」  瑠珂の声がする。  ミツルが玄関に出ると、防寒ばっちりの瑠珂がドアからペットボトルを差し出した。 「俺はバイトに行く。アンタは好きにしろ」  ミツルが受け取ったペットボトルは手がかじかむほど冷たかった。 「あの、瑠珂くん……」  引き止めてもミツルから言葉は出てこない。大人の都合を押し付けている自覚、その犠牲になるのはいつも子供だと分かっているから、ミツルは遠慮してしまう。 「再来週の日曜だよな。バイトのシフトを調整して後で連絡する」 「え、あ……」  ミツルが返事をするより早く、瑠珂はドアを閉めてしまった。外廊下の足音が遠ざかる。  ミツルはペットボトルのラベルに視線を落とし、口元を緩めた。 (ありがとう……)  レモン果汁の入ったスポーツドリンクを届けるため、ミツルはサヤカの部屋の襖をそっと引いた。
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