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役員達の計らいでミツルは異例の役職を得た。重圧と緊張に震えつつ、それでもみんなの期待に答えて、今まで以上に精進して会社に尽くそうと誓った。
しかし社長の奥さんと子供達は、隠し子であったミツルを快く思わなかった。優しかった奥さんの態度が急変し、社長に就任したばかりの義弟とはろくに口をきいて貰えない日々が続いた。
ある日、ミツルは社長から個人的に相談を受けた。「開発素地のいい話があるのだが、規模が大きいので経験の浅い自分だけでは他の役員を説得できない」と言う。義弟は遺言に従って社長となったが、それ以前は汗や泥にまみれた建設業を嫌い知人の飲食店でバーテンダーをしていた。ようするに仕事に関しては素人で、社長の肩書きはお飾りだった。
社員や取引先のなかには「義弟には社長の資格がない」と言う者さえいる。
義弟は「会社のために何かしたいんだ」とミツルを頼ってきた。無下にできるはずがない。ミツルは協力すると約した。
義弟の持ち込んだ一大プロジェクトを成功させるため、ミツルはいつも以上に気合いが入っていた。しかし懸命になるがあまり、ミツルは自分が罠にかけられていることに気付かなかった。
土地売買契約書が知らないうちに差し替えられていた。見たことのない金額に、ミツルは頭が真っ白になる。
社長は「ミツルが著名と押印をしろというからした。自分は何も知らない」とシラを切った。ミツルが渡した契約書と金額が違う。何度も説明したが、それを証明してくれる者がおらず、誰もミツルを信じてくれない。
会社は手付け金を流して契約を破棄した。1億円以上の損害だった。
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