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 旧校舎の裏側に引きずられ、雑草に埋もれるフェンスに投げ飛ばされた。よろめきながら立ち上がる腹に膝が食い込む。  噎せた。一発目から強烈なものをくらい地面に膝をつく。 「なめたことしやがって。人の女に手ぇ出してんじゃねえぞ」  襟首を掴まれて無理やり立たされると、今度は左頬に拳が入る。  見た目を裏切らず拳が強いってどういうことだろう。いまどき殴り慣れてない奴の方が多いのに、同じ学年の校章が似合わないくらい老け顔で、筋肉むきむきの男が一人だけ襲いかかってくる。どの女か知らないが、寝取られたことに腹を立てているらしい。  他の奴らは少し離れた所で俺が殴られているのを眺めている。ふざけたことに中にはゲームに熱中している奴もいた。俺が反撃するなんて思っていないようだ。ま、相手が見た目どおりに強くて反撃できそうにないけど……。  鳩尾に拳が食い込み激しく噎せた。口から血の混ざった唾液が流れ落ちる。  少しだけ頭を上げたところに蹴りが飛んできて、首がゴキッと鳴る。間違いなく鼻血を噴いた。 「春日ー、まだやるの?」  知らない男の声が飛んでくる。 「こいつの面が不細工になるまで気がすまねえ」 「もう十分ブサイクじゃね? その姿を記念に写真撮ってさ、早く終わらせろよ。一方的にいたぶられる所を見ても面白くねえよ」 「冗談じゃねえ。二度と女を引っかけられないぐらいにしてやりたいのに……。張り合いねえな、立てよ」  無防備な脇腹に蹴り上げられる。弱った振りをすればそれ以上はないと思ったけれど、春日という男は相当根に持っているようだ。 「あんまり虐めると後が面倒だぞ」 「今度は春日がそいつの女共から逆恨みされるかもな」  男達から揶揄した笑い声が上がる。  そうだ、そうだ。もう十分殴っただろ。「二度と俺の○○に手を出すな」ってお決まりの台詞を早く言え。その女には二度と近づかないから。あんたの彼氏怖いって二度と会わないから。 「まあ、樋口の節操のなさはちょっと厄介だよな」  誰かが冷めた口調で言った。過去の因縁を持ち出して殴る人数が増えるとさすがにヤバイ。死んだふりをするに越したことはなかった。
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