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「じゃあ、二度と女を抱けないようにすればいいんじゃないの?」
独特の間延びした声が聞こえて逆に目が冴えた。
高幡順平だ。珍しく静かだったから完全に忘れていた。
高幡順平が見ている前で無様に殴られ続けていたかと思うと、それまで無かった屈辱感が生まれた。
「それって、俺たちで姦しちゃうってこと?」
誰かが言った。想像していなかった言葉に悪寒が走る。
「いくら気に入らないからって男をヤル趣味はねえよ」
「いや、樋口はけっこう可愛い顔してるから案外いけるかも……」
勘弁してくれ。誰だ、バカなことを言い出す奴。
「その可愛い顔を春日がボロクソにしちまったけどな」
「ホントだよ。手加減しろよな、春日」
「見た目が悪いと萎えるだろ」
「……お前ら本気で言ってるのか」
飛んでくる野次を、春日は心底呆れている。
腹を押さえて蹲っていると、後ろ襟を引っ張られて喉がのけ反った。
「くっ、……」
苦しさより少し動いただけで全身を貫く痛みの方が辛かった。
「今から剥くか? 穴ぐらいは使えるだろ」
いやいや、一番冗談キツイって春日。
本気とも冗談とも取れない冷酷な言葉に、周囲の傍観者達は盛り上がる。
「腹いせにもほどがあるぜ」
「可哀想~」
「俺はやるなんて言ってないぞ。順平! お前が言い出したんだからお前がやれよな」
春日の手が離れ、地面に倒れ込む。
ほんの一瞬、高幡順平の高慢ちきな笑みが見えたような気がして奥歯が鳴った。
「痛っ! てめえ……」
弱った振りに徹するつもりだったのに、無意識のうちに動かした足が春日の脛に当たってしまった。脇腹に春日の靴の先が食い込む。
「ぐガァ、……っ、ゴホッ! ゴホッ!」
胃の中が噎せ返り、気道が乱高下する。
完全にノックアウト。身体のどこも動かせない。
それでも意識は都合よく飛んでくれず、霞む視界の中に男達の影は残り、話す内容はしっかり耳に届いた。
やたらと乗り気の声、あからさまに嫌悪する声。周りを囃し立て、自分ではない誰かに押しつけ合うことを楽しんでいる。
クソ……。女にモテないからって男の俺で処理しようなんて考えるな。
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