8/13
前へ
/575ページ
次へ
「じゃあ、二度と女を抱けないようにすればいいんじゃないの?」  独特の間延びした声が聞こえて逆に目が冴えた。  高幡順平だ。珍しく静かだったから完全に忘れていた。  高幡順平が見ている前で無様に殴られ続けていたかと思うと、それまで無かった屈辱感が生まれた。 「それって、俺たちで姦しちゃうってこと?」  誰かが言った。想像していなかった言葉に悪寒が走る。 「いくら気に入らないからって男をヤル趣味はねえよ」 「いや、樋口はけっこう可愛い顔してるから案外いけるかも……」  勘弁してくれ。誰だ、バカなことを言い出す奴。 「その可愛い顔を春日がボロクソにしちまったけどな」 「ホントだよ。手加減しろよな、春日」 「見た目が悪いと萎えるだろ」 「……お前ら本気で言ってるのか」  飛んでくる野次を、春日は心底呆れている。  腹を押さえて蹲っていると、後ろ襟を引っ張られて喉がのけ反った。 「くっ、……」  苦しさより少し動いただけで全身を貫く痛みの方が辛かった。 「今から剥くか? 穴ぐらいは使えるだろ」  いやいや、一番冗談キツイって春日。  本気とも冗談とも取れない冷酷な言葉に、周囲の傍観者達は盛り上がる。 「腹いせにもほどがあるぜ」 「可哀想~」 「俺はやるなんて言ってないぞ。順平! お前が言い出したんだからお前がやれよな」  春日の手が離れ、地面に倒れ込む。  ほんの一瞬、高幡順平の高慢ちきな笑みが見えたような気がして奥歯が鳴った。 「痛っ! てめえ……」  弱った振りに徹するつもりだったのに、無意識のうちに動かした足が春日の脛に当たってしまった。脇腹に春日の靴の先が食い込む。 「ぐガァ、……っ、ゴホッ! ゴホッ!」  胃の中が噎せ返り、気道が乱高下する。  完全にノックアウト。身体のどこも動かせない。  それでも意識は都合よく飛んでくれず、霞む視界の中に男達の影は残り、話す内容はしっかり耳に届いた。  やたらと乗り気の声、あからさまに嫌悪する声。周りを囃し立て、自分ではない誰かに押しつけ合うことを楽しんでいる。  クソ……。女にモテないからって男の俺で処理しようなんて考えるな。
/575ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2309人が本棚に入れています
本棚に追加