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みどりの髪が小さな頭を包んでいる。包まれた頭を撫でてあげると、その下でまばたく瞼の内側には眠たげなまなこが二つ、くりりと水晶玉のように浮かんでいるのが目についた。
今日も日がな一日苗植えばかりしていたからこの子もきっと疲れているのだと思う。わたしもそれは同じだった。うとうとして仰向けになると働き通しだった体はそう時間も経たない内にすっかり眠ろうする。
やわらかなベッドに背中を預けて目を向けると、薄暗い木の天井にちらちらと影が揺れていた。ベッドの横に灯されたロウソクの火からぼんやり洩れる黄色い光が、木でつくられた茶色い空間をやさしく照らしている。森の香りが仄かに漂う音もない部屋で二人そろって布団に潜ると心がとても落ち着いた。
この子が生まれてからいったいいくつの夜を越えてきたかしら。数えきれないくらいのときをふたりで過ごしてきた。毎夜のようにわたしが物語を聞かせてあげることはこの子にとってもはや習わしのようなものらしく、どれだけ疲れていても無関係にせがんでくる。それに応じてしまうわたしもわたしだけど、過去の凄惨な生活を思えばこの時間を大切にしたいという気持ちこそ自然なものなのかもしれない、とそう思う。
「それじゃあ今日は前のお話の続き聞かせてあげるね」
やった、という声も控えめに、エルフよりも人よりも澄んだ瞳でわたしの方をジッと見つめてくる。こんなにわくわく興奮しているくせに、気が付くとこくりこくり眠りに落ちてしまうものだから、話はいつも細切れのようになってしまうんだ。
今日はどこまで進められるかしら。
まずは前回までのあらすじから――わたし自身も目を閉ざして、夢の中から事柄をひとつひとつ手繰り寄せるように語りを紡いだ。
* * *
前回は確かわたしが小さなドラゴンと出会うところまでお話したのよね。ええ、そうね。蝕栄石が現れてから、魔物も人間もドラゴンもみんな生活を壊されてしまったのよね。
わたしたちはこうして平和に生活しているけど、少し前までは大陸中で多くの魔物とドラゴンが苦しんで、人間と蝕栄石が笑っていた。――って言っても、蝕栄石なんて元はただの鉱石、石ころみたいなものだったんだから、表情なんてどこにもないんだけどね。それにしたってあれほど恐ろしい生物は今も昔も他にいないと思うの。
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