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タクシー乗り場に着くと少し離れてキャリーカートを止めた。
「タクシー1台じゃ無理よね」
私がそう言うとニコッと笑う。
「ワゴンを頼んだから大丈夫だ。
未だみたいだから少し待とう」
そう言ってまた笑う。
その笑顔に胸がキュンとなる。
20年眠っていた彼への想いが少しずつ目を覚まして大きくなる。
「奈々美、恋人は?」
急に彼がそうたずねた。
「いないわ。
仕事ばかりだし、それに・・」
彼の顔が私の顔に近付く。
「それに・・
僕の事が忘れられなくて・・だと、嬉しいな」
私はからかうように言う慶吾に戸惑って何も言えない。
思わず顔が赤くなる。
「来たよ、先に乗って」
彼に急かされてワゴンに乗り込んだ。
8人乗りの車内は直ぐに彼の荷物でいっぱいになった。
夕方の所為で道が混む。
ホテルに着いたのは午後の7時を回っていた。
彼がチェックインを済ませ部屋に荷物を運び入れる間バーで彼を待った。
ホテルに着くまでの間、慶吾は私に膝枕をしろと言うとさっさと寝てしまった。
彼は私を何だと思っているのだろう?
中学のクラスメイト?
それとも友達?
それとも、何でも言う事を聞く便利な相手?
だとしてももう20年も前の話だ。
今はもう私だって・・
そう思っていると慶吾が私の肩を叩く。
「お待たせ、もう飲んでるの?」
暢気そうに笑う顔に少しだけムカついた。
「バーに来て30分も他に何をするのよ」
すこし突っかかるような言い方になった。
さっき思っていた事が胸に引っ掛かったのかも知れない。
「君、おなか空いてるだろ?
その言い方、可愛くない」
彼は笑いながら私の隣に座った。
「何か食べに行こうか?」
そう言って私を覗く。
「慶吾は?
お腹空いてないの?」
「う~んどうかな?
時差ぼけみたいで良くわからない・・奈々美は?」
「私、お酒はいっちゃうとあまり食べられなくて・・
おつまみ程度でもいいかも知れない」
「じゃ、飲もう。
時間は大丈夫?」
「うん、今は一人暮らしだから平気」
そう言って二人で飲んだ。
酔ってくると中学生の頃の話になった。
出合った時の話から始まって、彼のカミングアウトの話になった。
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