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翌日の午後、ボウムに連れられ大きな屋敷の門をくぐった。
久しぶりに会ったボウムは3年前のままだった。
「あなたって変らないのね」
そう言うと優子に顔を近づける。
「それって褒めてる?貶してる?」
韓国にいた頃、仕事で嫌な事が有る度にそうしてくれたようにおどけて笑った。
「これからは少し真面目な話をするね。
君の婚約者だけど、名前はハン、ジョンウ。
年齢は君と同じ二十九歳。
8年前に父親の跡を継いでまだ大学生の頃に社長になったんだが、業界ではやり手で有名だ。
新しい事業も迷う事無く自分の物にして手を広げている。
その分少し強引で社員にも自分にも厳しいらしい。
ついたあだ名が大魔王」
「大魔王?」
「うん。
ま、成功者につき物の妬みが半分以上だとは思うが、覚悟はしておいた方がいいと思う。
優しくて良い奴が偽の婚約者なんて探さないだろうし、第一、何年かで小さな会社を財閥と肩を並べるほどに大きくは出来ないだろう?」
「そうね。
でも、そんなに怖い人なの?」
優子は急に不安になった。
バタバタと日本を発って、ボウムの話もよく考えずに決めた。
友達に頼んでマンションも解約して、荷物も京都の実家に送ってもらった。
でもユニの傍にいたければもう後戻りは出来ない。
ボウムの言うように覚悟してこの役を演じるしかないのだ。
「いいわ。
これでも女優よ。
頑張って演じてみせる」
「そうだよ。
まさか取って食ったりはしない。
主役だと思えばいい。
君ならできる」
ボウムが人に会うため先に屋敷に入ると、メイドだという女性に伴われ中庭に通された。
主人の準備ができるまでと庭の散策を勧められたのだ。
静かで綺麗な庭だった。
広い芝生を中心に色とりどりの花や木で囲まれ、ベンチや東屋が配置されていた。
暫く歩いていると、
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