選ばれた封筒

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何人か候補の書類があるので選んでほしいとテスクが書類入りの封筒を机の上に並べた。 封筒にふられた香水の匂いに思わず顔を叛けた。 ネクタイを外しながら 「どれがお前の好みだ?」 そう聞く。 「この3番目がいいですよ、胸が大きいし」 テスクの顔を横目で覗く。 「じゃ、その人はいらない」 そう言って残りを見た。 一つだけ別に除けられた封筒があった。 「それは?」 そう聞く。 「あーこれ。 封筒が汚れてるんです。 失礼じゃないですか、なかを見る価値も無いかと思って」 顔を顰めながら答えた。 「じゃそれにしよう」 そう言うと驚いた顔で目を見張る。 口をぽかんと開けてジョンウを見るテスクに、 「後で家に持って帰って来いよ」 そう言って会社を出た。 車の中で思う。 どれも同じさ。 偽者の婚約者になろうとする女なんて。 「応募してくるくらいだ。 酷い不細工はいないさ」 そう呟いた。 女性問題こそ多かったが、仕事だけは成功させた父が急に亡くなって8年、跡を継ぐ気など無かったが周りに押されるようにして今の地位に就いた。 もともと商才が有ったのか、父の代より手を広げる形でこの2、3年は財閥と肩を並べるほどになった。 だがそうなると困った事にパーティだ慈善事業だと人前に引っ張り出される事が増えその度に女性のパートナーが必要になった。 暫くは秘書をしていた女性がその役を買って出てくれたが、先月急に結婚が決りその役をしてくれる女性がいなくなった。 「一人じゃまずいか?」 そう聞くと、 「駄目ですよ。 ただでさえ男好きだなどと噂が絶えないのに」 彼女の代りに新しく秘書になったテスクが大げさに言う。 実は姉の息子でこの春会社に入社したばかりだった。 姉の夫が病死したのを期にあれこれ面倒を見たせいか、兄のように慕ってはくれるが姉に良く似てとにかく口うるさい。 「分った、お前に任せるよ」 そう言ったのが半月前、瞬く間に何人かの候補を集めて見せた。
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