花帰葬

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土地が人を食う、なんともおかしな話だ。男は狐に化かされたのだと思い次の日からも変わらず花の元へと通いつめている。変わったことといえば最初のうちは仕事のあいまをぬって来ていたにも関わらず、ここ最近では寝食を忘れ花の側にいることぐらいだ。  ついに金も食料も底をつき、仕事も勘当された。何も残っていない男は四六時中ススキ野の奥にいた。  ひさしく人間とは口を聞いていない。口の中には米の一粒さえも含んでいない。日毎自分の体が衰えていくのがわかる。  男がススキ野の奥に引きこもってから七夜がすぎても男は里に戻ってこない。男の古くからの友人は男を心配し、男を捜した。里の人々にも頼み込み皆で捜した。それでも男は見つからない。  一縷の望みをかけススキ野の奥に行くと、男の着物だけが見つかった。男の身姿はどこにもなく、男がたいそう気にいっていた花の隣には昨日まではなかったはずの花が咲いている。それも着物とおなじ色をさせながら。  そして幾日も過ぎた日には、男を捜していたはずの友人の行方すらもわからくなっていた。  ススキ野の奥には花が増え、色なき風に吹かれながら、人の来訪を待ちわびている。  ススキ野の奥にはいかぬ方が良い。あの地は人を食う。
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