メビウス

12/20
前へ
/20ページ
次へ
 その時だった。  依子の部屋の鍵が乱暴にガシャン! と開き、血相を変えた高志が飛び込んで来た。 「──依子!」 「高志さんっ!」  依子はもつれる足で駆け寄って高志に抱きついた。  彼の体温を感じてやっと現実が戻って来たような気がする。 「囮みたいな真似をさせて悪かった……怖かっただろう。でもこういうのは現行犯じゃないとダメらしくて。でももう大丈夫だ」 「私……何が何だか。高志さん……!」  高志は腕を緩め、真剣な眼差しで依子を見下ろした。 「さっき依子が電話で言ってた、ネットで見つけた事件ってのはこれだろう?」  高志がジャケットの懐から一枚のコピー用紙を取り出す。  訝りながらそれを受け取って、依子は目を走らせた。 ─────────────────────────────────────────  平成〇年3月6日午後11時頃、都内会社員、遠山 順子さん(当時21歳)が自宅の黒田区北本町2丁目のアパートにて、カッターナイフで滅多刺しにされた。………… ───────────────────────────────────────────
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加