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「おいおい、ちょっと神経過敏になり過ぎだぞ。今は三月で入れ替わる時期だし、大家さんが儲け主義じゃないんだって不動産屋が言ってたじゃないか」
「そんなの、ホントの事を言ったら誰も借りなくなっちゃうから内緒にしてるのかも……」
その訴えも空しく、彼は身支度を整えてスタスタと玄関に向かいながら呆れ顔で振り返る。
「まあとにかく、もう少ししたら結婚して別の所で一緒に暮らすんだからそれまで我慢しな。今夜はそのまま寝ちゃえよ。寝ちまえば視線も何も感じないだろ」
依子が何か言うより早くダイニングの扉が閉ざされ、続いて玄関が開く音。
「……ふんだ。一緒にいてくれれば気にならないのに」
ポツリと独り言を宙に浮かばせて、依子は見送りもせずにベッドに再び潜り込む。
ガシャン……と、鍵の掛かる音が部屋に小さく響いた。
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