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「1つ前の世界と言うと、《カルカウド公国》にいた時ですね。何か思い出というほどの出来事はなかったはずですが……」
それもそうだ。カルカウド公国にいたのはほんの1年。学校に通っていたわけでも、力を使った職に就いていたわけでもない。
いつ終わるかわからない《旅》をしている俺は定職に就けるわけがないのだ。
「で、何を思い出していたんです?」
胡散臭い笑顔で尋ねるフェイは、端から見れば好青年なのだろう。
だが、俺は知っている。ーーこれはからかっている時の顔だ、と。
「楽しんでるな、お前」
「おや、何のことでしょう?」
相変わらずの胡散臭い笑みで、話を聞き出そうとするフェイに俺は口を噤む。
「《行ってらっしゃい》と言われたいんですか?」
そういう訳じゃないさ。ただ、懐かしくなっただけだ。
声にしなくとも、フェイには何故か伝わる。
「それはもちろん、貴方のことを愛しているからですよ」
「……勝手に心を読むんじゃねえよ。男に好かれても気持ち悪いだけだ」
「と、まあ冗談は置いておいて。……アイリさんでしたっけ?カルカウド公国で貴方を養ってくれてた彼女」
思い出すように、カルカウド公国にいた時の話を始めたフェイの声に耳を傾けていた。
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