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アイリはカルカウド公国に着いた時に街で途方に暮れていた俺に声をかけてくれて、事情を察して1年間も養ってくれた恩人だ。
どの《世界》に行っても、着いた瞬間はどうしていいのかわからずに途方に暮れてしまうことが多い。
そんな俺を拾ってくれた、命の恩人と言っても過言じゃない。
多分、当時の俺はそう思っていた。
「君、どうしたの?」
困っていた俺に手を差し伸べてくれて
「そっかー旅人さんなんだ!この街にある宿は今いっぱいだって。旅行シーズンだしね。よかったらウチ来る?心配しないで、私1人暮らしだから」
怪しいであろう俺を家に迎え入れてくれて
「え、宿空いたから出て行く?ずっとここに居ていいのに…って、旅人さんだもんね」
出て行くと伝えたら寂しそうに、だけど笑顔を見せて
「行ってらっしゃい。またこの街に来ることがあったらいつでもおいで。ずっと待ってるよ」
こんな俺に帰ってくる場所があることを教えてくれた。
あぁ、こんなにも俺は彼女のことを愛おしく思っていたんだ。
今更気付いても、もう遅い。
あの街を、カルカウド公国を、あの《世界》を離れて何年経った?
もう数えることすらやめた。
それでも俺は年をとらない。
それが俺の罪であるのだから。
木が密集して見えない空を見上げて、ため息をひとつ溢した。
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