第一章 ソウルトランサー

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「どうしてだ? 女の身体にはなったが、そこらのチンピラには負けねえぞ」 「そういうことじゃない」  少しムキになった俺に、同僚は冷静な声を返した。西日に赤く染まったレンズの奥の瞳はどこか冷たさを含んでいる。 「じゃあ、何だよ!?」 「……今のお前はゴーストだといったな。そんな若い女だったとは驚きだったが……いずれにせよクライムレベル最高位の超重罪人だ。そんな奴を野放しにはしておく訳にはいかないだろう」 「は? いや。だから言っただろ。身体はゴーストでも、中身は俺だって。お前もさっき信じたと言ったじゃねえか」 「ああ。だが、完全に証明するのは困難だ。口裏など幾らでも合わせられるからな。しかも、一番の問題はこの現象がいつまで続くかわからないということだ」 「…………あぁ?」  相手の意図が掴めず、眉間に皺を寄せた。 「つまり、ゴーストの魂が入ったお前の身体を捕え、お前の魂が入ったゴーストの身体は自由な状況にあるとする。そこで、この現象が突然元に戻ったらどうなる?」  子供に言い聞かせるような口調で、ようやく言わんとすることが理解できた。 「ゴーストの体は自由な状態にある訳だから、そのまま逃げられるってことか」 「そうだ。つまり犯罪者においては魂と身体。両方の捕獲が必要だということだ。やれやれ、溜め息が出る。ただでさえ奴らとの追いかけっこには辟易しているというのに。手間が二倍だ」  実際に溜め息をついたエメロは、ゆっくりとこちらに近づいて来た。 「そういう訳だから、しばらくの間、お前達は拘束しておく必要がある。一緒に来い」 「……あ、ああ……」  まあ、確かにエメロの言う通りではある。折角捕えた重犯罪者にみすみす逃げられる訳にはいかない。  だが、同僚達のほうに一歩踏み出した俺は、そこで動きを止めた。  ……待てよ。しばらくの間って……いつまでだ?
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