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「どうしてだ? 女の身体にはなったが、そこらのチンピラには負けねえぞ」
「そういうことじゃない」
少しムキになった俺に、同僚は冷静な声を返した。西日に赤く染まったレンズの奥の瞳はどこか冷たさを含んでいる。
「じゃあ、何だよ!?」
「……今のお前はゴーストだといったな。そんな若い女だったとは驚きだったが……いずれにせよクライムレベル最高位の超重罪人だ。そんな奴を野放しにはしておく訳にはいかないだろう」
「は? いや。だから言っただろ。身体はゴーストでも、中身は俺だって。お前もさっき信じたと言ったじゃねえか」
「ああ。だが、完全に証明するのは困難だ。口裏など幾らでも合わせられるからな。しかも、一番の問題はこの現象がいつまで続くかわからないということだ」
「…………あぁ?」
相手の意図が掴めず、眉間に皺を寄せた。
「つまり、ゴーストの魂が入ったお前の身体を捕え、お前の魂が入ったゴーストの身体は自由な状況にあるとする。そこで、この現象が突然元に戻ったらどうなる?」
子供に言い聞かせるような口調で、ようやく言わんとすることが理解できた。
「ゴーストの体は自由な状態にある訳だから、そのまま逃げられるってことか」
「そうだ。つまり犯罪者においては魂と身体。両方の捕獲が必要だということだ。やれやれ、溜め息が出る。ただでさえ奴らとの追いかけっこには辟易しているというのに。手間が二倍だ」
実際に溜め息をついたエメロは、ゆっくりとこちらに近づいて来た。
「そういう訳だから、しばらくの間、お前達は拘束しておく必要がある。一緒に来い」
「……あ、ああ……」
まあ、確かにエメロの言う通りではある。折角捕えた重犯罪者にみすみす逃げられる訳にはいかない。
だが、同僚達のほうに一歩踏み出した俺は、そこで動きを止めた。
……待てよ。しばらくの間って……いつまでだ?
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