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もし、この現象が元に戻らなければ俺はゴースと一緒にずっと拘束されることになる。クライムレベル最高位のゴーストの場合、一生監獄から出られることはないだろう。
つまり、俺も――
「どうした?」
エメロは抑揚の消えた声で俺に語り掛けた。
声色から察するに、こいつは下手すると俺が一生拘束されることを理解している。同期だが、仕事には一切の甘い感情を持ち込まない男だ。
風がなく、ちりちりとした熱気のたちこめる公園で、冷たい何かが背筋を這い上る。
……ここで捕まるのは……まずいな……。
無意識に後ずさった俺を見て、同僚はぴくりと表情を変えた。そして、背中に手をまわしサーベルのような細身の剣を取り出す。
エメロの暗器「絶対零度(アブソリュート・ゼロ)」
その刀身は硬化させた液体窒素で作られており、触れるものを瞬時に凍てつかせる。
「ちっ!」
「逃がさんっ!」
エメロは後ろに駆け出した俺に向け、霜をまぶしたような細身の剣を振り下ろした。
刀身が地面に触れた瞬間、ビキビキと軋み音をあげながら、氷の蔦が大地を這う。それは蛇のように身をよじらせて、俺のすぐ足下を通り過ぎた。
初撃は運良く外れたが、次はわからない。
いっそ戦うべきだと判断した俺は、振り返って迷彩コートの内側から暗器を取り出した。しかし、振り上げた先端から発された炎は、薄く弱弱しい軌跡を描くだけだ。
「くっ!」
暗器は特対の体格や戦闘特性に合わせて作製されている。この身体では、まだ十分に使いこなすことができない。結局、背中にゴーストを抱えたまま、俺は市街地の方に駆けだした。
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