プロローグ

2/2
283人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
 その銃を拾い上げた俺は、ゆっくりと照準を合わせた。  息が詰まるほどの重苦しい空気。それと反比例するように、夜空は凛と澄み渡っている。  ぬるい風が半ば廃墟と化したこの空間に吹き込み、俺の青い前髪を洗い流していく。  頬を流れる一筋の滴。  汗か。涙か。  それとも、絞り出された魂の残滓か。     俺が向けた銃口の先には、一人の人物がいた。  真っ黒な髪に褐色の肌をした男。  俺は十八年前からその男をよく知っている。なんせ少し前まであいつは俺だったからだ。  そう。あれは、俺だ。    あちらに立つ俺は、銃を握る俺を、じっと見つめている。  俺は、おもむろに引き金に指をかけると、人差し指に力を込めた。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!