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その銃を拾い上げた俺は、ゆっくりと照準を合わせた。
息が詰まるほどの重苦しい空気。それと反比例するように、夜空は凛と澄み渡っている。
ぬるい風が半ば廃墟と化したこの空間に吹き込み、俺の青い前髪を洗い流していく。
頬を流れる一筋の滴。
汗か。涙か。
それとも、絞り出された魂の残滓か。
俺が向けた銃口の先には、一人の人物がいた。
真っ黒な髪に褐色の肌をした男。
俺は十八年前からその男をよく知っている。なんせ少し前まであいつは俺だったからだ。
そう。あれは、俺だ。
あちらに立つ俺は、銃を握る俺を、じっと見つめている。
俺は、おもむろに引き金に指をかけると、人差し指に力を込めた。
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