第一章 ソウルトランサー

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「逃がすかっ! マツリ、お前も暗器を出せっ!」 「え、でもっ」 「急げ! 奴はクライムレベル最高位の重罪人だ」  背後で、二人の仲間の叫ぶ声が聞こえる。仲間。仲間か。くそ。  大通り公園からは、放射状にのびた小径が家々の隙間に入り込んでいる。その薄暗い迷路に飛び込もうとした直前、筋肉に痙攣が走り、俺は盛大に石畳に転がった。 「あっ。先輩、す、すいませんっ! だ、大丈夫っスか!?」  片膝をつきながら後方を流し見ると、赤毛のポニーテールが少し焦った顔でこちらに駆けてくるのが見えた。奴の右手には鎖のようなものが握られている。  マツリの暗器「束縛電雷(ボルトチェイン)」。  鉄製の鎖の表面を流れる電流で、対象を行動不能にする厄介な暗器だ。  「……くっ」  よろよろと立ち上がって目の前の小路に飛び込んだが、膝が震えてうまく走れない。電撃のショックに加え、このひ弱な身体で長時間人間を背負っていた疲労のせいもある。このままではすぐに追いつかれてしまう。  いっそ背中の荷物を捨てるか? ……いや、でもこれは俺の身体だ。  そんなことを考えていたら、 「そ、そこを右に入って下さい」  突如、その背中の荷物が声を出した。 「ゴ、ゴースト! お前、起きていたのか!? だったら自分で走れや、このボケ!」 「なんだか突然びりびりして目が覚めました。あの、どうでもいいけど、あんまり私の顔で口汚い言葉を吐かないで欲しいのですが。しかも、意外にその暴言が顔の雰囲気に合っていて、余計嫌です」  確かに。ゴーストの凍てつくような美貌にはきつめの言葉がしっくりくるかもしれない。だが、そんなことはどうでもいいっ。だったらお前も俺の顔で、そんな生っちょろい敬語なんて使うな。それが見た目の印象通りなのが更に忌々しい。
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