第一章 ソウルトランサー

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「待て!」  エメロの声が後ろで響き、狭い路地の壁に氷の手足が勢い良くのびる。 「くっ!」  俺はとりあえず、ゴーストに言われた通り次の角を右に曲がった。 「次を左で、その次を真っ直ぐ進むと、ゴミ箱があります。その中に入って下さい」  釈然としないものを感じながらも、背中の指示通りにうねうねと曲がる路地裏を進む。  エメロとマツリの焦り声が離れた壁の向こうで聞こえた。俺達の姿を見失ったようだ。ゴーストは住人だけあってさすがに道に詳しい。日頃この意味不明な迷路にはうんざりしていたが、今ほど街が迷宮で良かったと思ったことは無い。  ゴーストが指示した鉄製のゴミ箱に飛び込むと、そこには地下に降りる梯子があった。迷宮街にはこのように、あちこちに地下に向かう入り口が隠されている。梯子を下り、白い蛍光灯に照らされた狭い通路に降り立った時、頭上を二人分の足音が通り過ぎるのが聞こえた。   俺は、ようやく息をつき、背中の荷物を投げ捨てた。 「あいたっ。いきなり何するんですかっ!」 「お、すまん。大丈夫か?」 「……あ、ええ、まあ」 「いや、お前じゃなくて、俺の身体は大丈夫か?」 「……む。仕返しですね。性格悪いですよ」 「犯罪者に言われたくねえ」  言い捨てると、ゴーストは不敵な笑みを漏らした。 「ふふふふ。いいんですか? そんなことを言って。なんとなく状況がわかってきましたよ。今はレドさんも追われる立場なのでしょう」 「ぐっ、お前っ………」  追う者と、追われる者。その身体が入れ替わり、今は二人ともが追われる身となった。  突如降ってわいた理不尽すぎる状況に、俺はぎりぎりと歯噛みする。  ギロリとゴーストを睨みつけ、ふと疑問がわいた。 「……ん? そういえば、なんで俺の名前を知っている?」  名乗った記憶はないし、エメロ達と話していた時は、こいつは気絶していたはずだ。 「背負われて逃げている時に、内ポケットの身分証を見ました」 「はあ? 勝手に見るなよ」 「ふふふ。まあ、いいじゃないですか。私達は魂の兄弟。一蓮托生という奴です」  俺の顔のゴーストは何故だか嬉しそうに語り、大きな鳶色の瞳を開いてニパリと笑った。 「私はソネット。ソネット・バークレイといいます。  ――ようこそ。迷宮の街へ」
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