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「……ここは、まだ良い方か」
そう呟いて、周囲を軽く見まわした。
灰色の壁。弱々しく瞬く白い蛍光灯。年頃の女が住むにはあまりに殺風景だが、確かに居住性は悪くなさそうだ。内部は十メートル四方の空間が三つの部屋に区切られており、シャワーもついているらしい。住設備の充実度からすると、ここは市街地エリアなのかもしれない。
「レドさん。あんまり乙女の部屋をじろじろと見まわさないで下さい」
「頼むから俺の顔で乙女とか言うな。それよりテレビはあるか?」
俺はスープを片手で飲み干しながら、部屋の主に尋ねた。だが――
「もう、いきなりテレビだなんて! 食事どきは一家団欒、会話の時間なんですよ!」
ソネットは両手を腰にやって頬をぷくっと膨らませた。自分の顔に説教されるというのはなかなか貴重な体験だが……面倒臭いことに変わりはない。
「あのな。一家団欒って、別に俺とお前は家族でも何でもねえぞ。まさか忘れているんじゃないだろうな? 俺は追う者、お前は追われる者だ」
「まあまあ。今は仲良く追われる身じゃないですか」
「あぁ、むかつく。心から息の根止めてやりたい」
「怖っ。そんな怖いこと言わないでください。完全に犯罪者の目になっていますよ」
「犯罪者はお前だ」
しかも、これお前の身体だし。
「とにかく。ちゃんと団欒するまではテレビのリモコンは渡しませんよ」
ソネットは母親のようなことを言って腕を組んだ。なかなか頑固な性格らしい。
俺は、長い溜め息を吐いた。力に訴えることも出来るが、向こうは俺の身体だ。あまり無茶はしたくない。
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