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「だ……誰が逃げ出した!?」
「今調査中ですが、狂言の可能性もあるんで正確にはわかっていないんス。今のところ中程度の罪人が何名か確認されていますが、特に危険なのはクライムレベル八の詩人・フェムレス」
マツリの答えに俺は呻いた。
フェムレスは自称詩人という変わった罪人で、美しい女ばかりを狙った連続殺人鬼だ。なんでも華の枯れ落ちる瞬間こそが、自分がもっとも美しい詩を思いつく瞬間ということらしい。貴族のような見た目に反して中身は完全にいかれた男だ。
「ち……面倒なのが解き放たれたな……」
「そうなんス。奴の身体が言うには、自分は迷宮街の肉屋の親父だと。逆に言うと、そいつの身体にフェムレスが入っていることになるッス。身長は百八十五センチでがっちりした体形。禿げ頭と赤ら顔、それにダンコ鼻が特徴らしいんで街で遭遇したら注意して下さいっス」
「わかった。それで悪党と入れ替わった町人達はどうなる?」
「残念スけど、いつ元に戻るかわからないんで当面は監獄で拘束状態っス」
淡々と答えるマツリ。つまり俺が捕まった場合もそうなるということだ。
だが、俺にはもっと気になることがある。ごくりと喉を鳴らして肝心の質問を口にした。
「パイソンは……どうだ?」
俺は半年前に運良く捕えたクライムレベル最高位の犯罪者を思い出していた。
世界の深淵を映しこむ漆黒の瞳。思慮深い智謀と底冷えのする残虐性を兼ね備えた悪のカリスマであり、迷宮の闇の王。あいつだけは二度と出してはならない。
「一番やばい奴なんですぐに確認したんスけど、大丈夫だったみたいっス。特に騒いでもいないし、本人に関する質問にもちゃんと答えられているようっス。特対は取りあえず街の封鎖を強化して、罪人を迷宮街に閉じ込めつつ、原因究明に全力をあげる方向っス」
「そうか。わかった……」
心からの安堵。だが、街の封鎖強化は俺にとっても良いニュースじゃない。このままでは袋のねずみだ。俺としても早々にこの問題を解消せねばならない。
そう考えていたら――
「ふにゃぁぁあっ!」
向こうの部屋から猫が潰れたような悲鳴が響いた。
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