彼方のきみへ

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彼方のきみへ

「やっと見つけたよ」  そう言われたとき、胸がいっぱいになって声がつまった。  ──わたしに気づいてくれた──その想いが心を滲ませる。  人の多い街のなかで、わたしはずっと独りで佇んでいたからだ。 「わたしを知っているのですか?」  目の前に立つ男の人──わたしに声を掛けてきた青年に訊いた。 「すごく知っているし、ぜんぜん知らないとも言えるね」  ヘニャと相好を崩して、青年が曖昧な返事をする。  わたしよりも歳下に見える青年に、なんだかとても親近感が湧いた。 「わたしの名前を知っているの?」 「ハルカ──星逢 遙(ほしあい はるか)さんでしょう?」 「どうして知っているの?」  あまりにも平然と答えたので訝ると、青年が照れながらわたしの胸を指差した。 「だって名札に書いてあるからね」  そっと見下ろした胸には、青年の言った名前の彫られたネームプレートが付いていた。 「あっ……本当……」今まで気づかなかった恥ずかしさで、また声がつまった。 「自分の名前を忘れたのかい?」 「わたし……名前ばかりか、どうして此処にいるのか思い出せないの」  戸惑うように答えると、青年が安心させるように人懐っこい笑みを浮かべた。 「タクミ、僕の名前は遠野 拓三(とおの たくみ)って言うんだ」 「タクミ……さん」 「タクミでいいよ。なにかのショックを受けて、一時的に記憶が失われているんだね」  タクミがそう言いながらわたしの周りを廻って、その元凶である外傷をつぶさに探した。
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