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それがとても気恥ずかしくて、わたしは手持ち無沙汰にタクミをチラリと覗き見する。
(なんで初対面なのに、こんなに安心できるのだろう?)
首をかしげながら考えていると、ふいにその答えがコロンと転がった。
その笑顔だ──タクミの笑顔は、わたしが鏡の前で練習した笑顔に似ているんだ。
(でも、なぜわたしは……鏡の前で笑顔の練習をするのだろうか?)
考えれば考えるほど、こんこんと湧きいづる疑問を持て余した。
「あっ、ごめんなさい……逢ったばかりなのに馴れ馴れしくして」
タクミが引き攣った表情で頭を下げる。
「ううん、大丈夫よ。むしろ心配してくれて、ありがとう」
その言葉を聞いたタクミが、眼を潤ませて泣きそうな笑みを浮かべた。
「良かった……不器用だから上手く笑えなくて、それでいつも人づきあいで失敗するから」
「……わたしもそうだった……気がする。きっと生き方が不器用なのね」
「お互いに損な人生だね」
そんな愚痴をこぼしながら、顔を見合わせて苦笑した。
──そのとき、人混みを縫って近づく黒衣の男が視界に映った。
「あれは……?」思わず言葉がもれる。
一見して普通ではないと知れた──黒いフェルトハットに、黒いサングラス、黒い上下のスーツに、黒い手袋と靴、全身黒ずくめの男が近づいてくる。
さらに奇妙に見えるのはその口元で、肌色のマスクで覆っているのか口が見えなかった。
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