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タクミが黒衣の男を見て、血相を変えて小さな悲鳴をもらした。
「あれは、狩人だッ」
「狩人って……?」
「逃げないと!」
なんの説明もないままに、タクミがわたしの手を握って駆けだした。その勢いに負けて、わたしはもつれる足で走る。
それに気づいた狩人が、わたしたちよりも迅く走りだした。それはまるで獣のように俊敏で、とても人間とは思えない速度で迫ってくる。
「その角を曲がってッ」タクミが叫んだ。
言われるままに狭い街路裏に入る。狩人も追ってきた。
ごぉんッ!!
骨と肉を打つ鈍い音が響いた。
タクミが街路裏にあった鉄パイプで、狩人の顔面を思いきり打ったのだ。
狩人がその打撃を受けて、もんどり打って地面に倒れる。
その衝撃で黒い帽子とサングラスが外れた。
「ひぃ……ッ」
狩人の顔を見て、たまらずに悲鳴がもれる。
その頭には髪が無く青い血管が浮き上がり、口がある場所には何も無く皮膚で覆われていた。
特筆すべきはその眼で、血のように紅い眼が爛々と輝いていたのだ。
「……化け物!?」
震えるわたしを見て、狩人が口の無い顔で笑ったように見えた。
「走って!」
タクミの叫びで我に返り、狭い路地裏を抜けて街を駆けた。
街はずれまで来ただろうか──息を切らすわたしに、タクミが振り向いて言った。
「此処まで来れば、もうヤツを巻いたと思うよ」
「あの狩人って一体なんなの?」
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