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「それは……」
開口一番で訊くわたしに、タクミが躊躇いがちに言い澱んだ。
よほど言いづらいことなのだろう。タクミが痛ましい表情でうつむいてしまった。
「気遣って言えないのなら、わたしは平気だから。もう普通じゃないことは理解してる」
──そう、此処は普通の世界ではない。
街の人間は動きを止めたまま、彫像のように静止している。
空は青い色ではなく、真珠色のように霞んでいる。
なによりも、あの狩人はどう考えても人間ではなかった。
「あの狩人は……この世界に迷える魂を処分する処刑人なんだ」
タクミが意を決したように口を開いた。
「この世界……処刑人……?」
「此処は中有界、現世とあの世の境に存在する世界なんだ。
そして、そこであの世に逝くのを躊躇い彷徨する魂を、死後の世界に送るのが狩人の役目なんだ」
「それって……わたしたちはもう死んでいるってことなの……?」
タクミの言葉に衝撃を受けて、わたしは虚ろな声で問い質した。
「眼を凝らしてごらん。ハルカのお腹から出ている紐が見えるから」
そう言われて自分の腹部を見ると、儚く輝く光の粒子のような紐が徐々に見えだした。
その光る紐は臍から下に垂れ下がり、まっすぐ地面に埋まっている。
「これは……魂の紐なの?」
「そうだよ。ハルカはまだ生きているんだ」
タクミの方を振り向くと、その頭からも光る紐が見えた。
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