彼方のきみへ

6/9
前へ
/9ページ
次へ
「そんなことないッ!!」  タクミの激しい叱責で、わたしは覚醒するように心が揺さぶられた。 「もう一度よく眼を凝らしてごらん」  その優しい瞳で見詰められ、わたしは心を澄ますようにタクミを見た。  すると、タクミの胸から青い紐が伸びて、わたしの胸と繋がっているのが眼に映った。 「これは……?」 「ハルカは僕と繋がっているんだよ」 「タクミと?」 「僕はきみの生まれ変わりなんだ」  タクミがそっと言った。 「わたしの生まれ変わり……?」  わたしは意味が分からず、タクミの言葉を繰り返した。 「退行催眠って知ってる? 催眠術を掛けて、どんどん過去の記憶を遡っていくと、遂には生まれ変わる前のことをしゃべり出すってヤツ」 「……テレビで観たことがある」 「僕は自分の生まれ変わる前が知りたくて、それで退行催眠を掛けて過去に遡ったのさ。 すると、この中有界で独りぼっちのハルカを見つけたんだよ」 「タクミは未来から来たのね」 「ああ、そうだよ。僕が存在しているのは、きみと繋がっているからなんだ。 だから誰とも繋がっていないとか、そんな悲しいことを言わないで」  タクミにそう言われて、わたしは自分が如何に卑屈だったかを思い知った。  人は一人では生きていけない。そんな大事なことに死に掛けてから気づくなんて──
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加