3人が本棚に入れています
本棚に追加
「つくづく、わたしって不器用」
「それは僕もそう思うよ。生まれ変わっても、そこは変わらないね」
タクミが微笑んだので、釣られてわたしも笑みがこぼれる。
わたしは胸のネームプレートを外して、そっとタクミの掌に握らせた。
「こんな情けない前世のわたしだけれど、きみに逢えた証拠にコレを持って行って」
「でも……僕はなにもあげられない」
「ううん、大事なものを貰ったわ」
その言葉を聞いたタクミが、年相応にはにかんだ笑みを浮かべた。
魂の紐を手繰る中有界の旅も、とうとう終着点が見えてきた。
東西へ続く高架線──その下の道路に静止した人だかりが見え、そこにわたしの魂の紐が続いていた。
「なにかの事故かな?」
わたしは問い掛けたが、タクミの視線が別の方へ向いていた。
「狩人ッ!?」
路の果てに佇む黒衣の狩人が、口の無い相貌で眼を細める。
「ハルカ、僕が囮になるから、早く身体に戻るんだ!」
タクミが鉄パイプを手渡しながら、わたしに向かって強く叫んだ。
「でも、タクミは!?」
タクミがオデコをくっつけながら、「さよなら」と小さく口ずさんだ。
そして、狩人目掛けて走りだす。
「タクミ──ッ!!」
わたしは手を伸ばしながら叫ぶが、引力のように強い力で引っ張られた。
タクミが狩人に捕まる寸前で、するりと逃れて光の柱に昇っていくのが見えた。
そこで視界が暗転した──。
最初のコメントを投稿しよう!