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──暗黒に光が差した。
まぶしい光が視界を覆い、その光輪のなかに顔が浮かんだ。
「やっと見つけたよ」
目の前にタクミの顔があった──いや、それはタクミではなく、オレンジの制服を着たレスキュー隊員だった。
「バスガイドさんが見つかったぞ!」
周りでどっと歓声が沸いた。
「わたしは……?」
「きみは崩れた高架線で潰れたバスから、最後まで乗客を逃がしたのです。
最後の乗客を降ろした瞬間にバスが潰れて、瓦礫に埋まっているところを救助しました」
「バスが瓦礫に……!?」
「それが奇跡的に鉄パイプが挟まって、瓦礫で押し潰されるのを逃れたのです」
「鉄パイプがっ!?」
タクミから手渡されたモノだ──タクミが置いていった記憶は残っていた。
「本当に奇跡的にも大きな外傷はありませんが、病院で精密検査を受ける必要があります」
ストレッチャーに乗せられたわたしの周りを、多くの乗客が囲んで見下ろした。
「助けてくれてありがとう」
「バスガイドさんのお陰で助かったよ」
「バスガイドさんのお陰で、また孫の顔が見られます」
みんながわたしの生還を喜んでくれる。なかには涙を流す人までいた。
そんな人たちに囲まれていると、まだ生きていて良かったと思って心に滲みた。
「皆さんが、あなたの生還を祈っていたのですよ」
そう言うレスキュー隊員の胸に「遠野」の黒い字を見つけた。
「遠野……という名前なのですか?」
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