涙の理由

2/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「わ、ヒク、わだしの、ヒク、か、描いた絵に、ぐす、イタズラしたの、だれですか?」  一人の少女が教壇に立ち、嗚咽を漏らしながら訴える。 「……う、う、ぐすん」  気まずいムードが流れ、押し黙るクラスメイトたち。チラチラと視線を投げあい、みな困惑の表情を浮かべる。せっかくの卒業式なのに、とでも言いたげだった。 「はい。この血の涙を描いた人、正直に手を挙げなさい。先生、怒らないから」  担任の教師が教室を見渡した。  もちろん手を挙げる者はいない。 「仕方ない。みんな、机に顔を伏せなさい」  エエー、と非難じみた声を男女とも漏らすが、しぶしぶ従う。 「ほら、きみも席に戻って」  促され、少女も自分の席に着く。 「じゃ、もう一度聞く。イタズラした人、手を挙げなさい」  クラスのだれ一人微塵たりとも動かない中、教師はおずおず挙手し、出来心だったんだ、と静かに反省した。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!