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「わ、ヒク、わだしの、ヒク、か、描いた絵に、ぐす、イタズラしたの、だれですか?」
一人の少女が教壇に立ち、嗚咽を漏らしながら訴える。
「……う、う、ぐすん」
気まずいムードが流れ、押し黙るクラスメイトたち。チラチラと視線を投げあい、みな困惑の表情を浮かべる。せっかくの卒業式なのに、とでも言いたげだった。
「はい。この血の涙を描いた人、正直に手を挙げなさい。先生、怒らないから」
担任の教師が教室を見渡した。
もちろん手を挙げる者はいない。
「仕方ない。みんな、机に顔を伏せなさい」
エエー、と非難じみた声を男女とも漏らすが、しぶしぶ従う。
「ほら、きみも席に戻って」
促され、少女も自分の席に着く。
「じゃ、もう一度聞く。イタズラした人、手を挙げなさい」
クラスのだれ一人微塵たりとも動かない中、教師はおずおず挙手し、出来心だったんだ、と静かに反省した。
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