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真夜中に中央線の線路脇を非正規社員の石田三成は歩いていた。
「あの、もし、ちょっと助けてもらえませんか?」
呼び止められたので、振り向いたら血だらけの男が足を引きずっていた。
「いや、これから夜勤の仕事なのでちょっと………」
「あなた、僕の姿が見えるんですね?」
しまった。不味いことに気づかれたと思ったが、すでに遅かった。
「いろんな人に声をかけたけど、誰も気づいてくれなくて」
「それは───、あなた、幽霊ですよね?」
「やっぱり、そうなんだ。薄々は気づいてました」
「私の力ではなんともお助けはできないかと」
三成は残念そうに答えた。
「スイスフランのFX取引で8000万の損害出して、電車に飛び込んだんですよ」
男はぽつぽつと身の上話を始めた。
「はい」
「最初は資産が5000万ぐらいに増えて調子に乗っていて、寝てる間に暴落して………」
ため息の後に、沈黙が流れた。
「そうですか」
三成は背中のリュックから水筒を取り出して、お茶をコップに注いでそっと差し出した。
「まあ、これでも飲んで下さい」
男は美味しそうに一気に飲み干すと、何ともいい笑顔になった。
不思議なことに、男の姿はゆっくりと霞んでいった。
三成はそっと瞑目して手を合わせた。
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