第1章

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 「ただ計算能力だけでなく、天才と呼ぶにふさわしい勘の鋭さも備えていた。私が何の気なしに持ってきたこの石に目をつけるとは。私はほんのお守り代わりで入れるつもりだったのに――思えば、ローズ将軍は素晴らしい贈り物をしてくださった」  ラルフは足元にうずたかく積まれた『核』の山を見つめた。どれも少しずつ色合いが違い、内部に精緻な曲線を帯びているが、『聖域』で生み出されたシャンのものに比べると、心なしかぼやけた印象がある。しかし、どれ一つとして美しいことに変わりはない。  「私はこれでも感傷的な方だ」フォレストは自嘲した。「十五年前、ひとえに信頼していた参謀を失った時は、気も狂わんばかりだった。少年の頃から戦地に出ていながら、身近な者を失う悲しみに未だ慣れていなかった。部下の命が失われるのを見るくらいだったら、初めから命など持たない者を部下にする方がましだ、そう思うくらいだった」  それが彼を人造兵士計画へと駆り立てたのか。  ラルフは『核』の山を両手ですくった。かりそめの命を宿した宝玉の山は、燦々ときらめきながら指の間を流れ落ちる。  政府が望んだものは人間と同等以上に働く精密機械であり、フォレストが望んだものは命も感傷も持たない機械の兵士だったに違いない。愛着を持たなくていい部下として、彼は人形の兵士を望んだ。しかしきっと、信頼に結ばれた友を欲する無意識の願望が、試作機の胸に『お守り』を入れさせ、彼にシャン大佐を与えたのだ。  「そいつはローズ将軍が君によこしたのかね?」  アーニーの問いに、フォレストはうなずく。「参謀を失って意気消沈していた私に、幸運を呼ぶ守りだと言って送ってきてくれた。話によれば、将軍の弟が世界を旅している時に未踏の地の遺跡で入手してきたものだと……。『聖域』のものだと知ったのはつい最近だ」  「あなたはシャン大佐を感情なき機械であれとお作りになった。大佐の出来に満足して、後継機を作っていったわけでしょう。でも、彼らをここに連れてこようと思ったのは何故なのです? 霊性など必要ないとは思わなかったのですか?」今度はウルが問うた。  「――実際、作った人形を無機物と断じて、愛着を抱かずにおれる人間がいると思うかね?」  フォレストの問い返しに不意を突かれて、ウルは頬を紅潮させた。  「私にはわかりません」
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