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腕に付けている時計を見る。
月と地球が重なり合うのと同じ様に、時計の短針と長針は12時を示している。
大園は目頭を指で軽く押し、重い頭を持ち上げた。
昼食を取らなければいけないのだが、如何せんこのデスクの散らかり具合ではゆっくりランチをしている余裕はなさそうだった。
大園はスマートフォンを取り出し、液晶画面に表示されている電話番号の短縮用アイコンをタップする。
程なくしてスマートフォンの受話器からは、聞きなれたコール音が鳴り響く。
『……はい。社長、いかがしましたか?』
途切れたコール音の代わりに、女性にしては少し低めの落ち着いた声が聞こえて来た。
聞き知った声であるが、事務的な声は少し冷たく聞こえてしまう。
電話口でキャンキャン甲高い声や、もしくは甘えるような声を聴かされるよりは大園自身へのダメージは殆ど無い。
むしろ良く動き、働いてくれている社長付秘書である。
「あぁ。すまない。頼みたいことがあるんだが……」
大園は歯切れ悪く、口を閉ざして行く。
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