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「そうなのか? だってよ、珍しいって思ったんだ。普段俺の容姿をこき下ろすお前の口から、見てくれのええヤツなんて単語が出てくるなんてさ」
「そこまで、見てくれのええヤツでもないけどな。普通より、ちょっとだけええ感じっていうか」
飯島の抱いた疑問は確実に、自分の心を揺さぶるものだった。今までこんな風に、誰かの容姿を褒めるなんてしなかったから尚更だ。
「兵藤は外見だけがイケメンだからな。お前が褒めたソイツ、きっと中身もイケメンなんだろうよ。こりゃ春が楽しみだねぇ」
実に可笑しいと言わんばかりに高笑いして出て行った飯島に、反論出来る余裕なんてなかった。
「……否定せんわ。俺はお前の言う通り、外面だけの男だから」
誰だってむやみに、人には嫌われたくはない。だから優しく接していただけなのにそれが許せないと、今まで付き合ってきた彼女に言われた。それを踏まえて距離を置いた態度をとったら、それは思わせぶりだと言われる始末。だったら、どないな態度をすればええんや!?
「もう恋なんてせぇへん。仕事だけに生きる……」
ままならない恋愛をして神経を無駄にすり減らすよりも、仕事でストレスを抱えている方が数倍マシだと、兵藤は苛立ちながら喫煙室を後にしたのだった。
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