続 長瀞ライン下り

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家族ってこういうのなんだなと改めて思った。 帰りの車中は静かだった。 うるさい男子たちが疲れて爆睡していたからだ。私もウトウトしながらシートの背もたれに体を預け、暗くなりかけた景色に目をやっていた。 「今日はありがとう。すっごく楽しかった。」お母さんと葉山コーチが話しているのを、盗み聞きのように聞いていた。 「リナちゃんも楽しめたかな。」 「うん、あのコ、普段よりいーっぱい食べてたし、舟に乗ってたときも、あんな楽しそうな顔は久しぶりに見たわ。」 「そう言ってもらえると僕も嬉しいよ。」 「リナは人見知りするから。難しいコなんだよね。あ、私もだけど。」 「何が?」 「私も難しい女なのよ。」 「どんなふうに?」 「男性不信なの。だからずっと一人で子供たちを育ててきたわ。」 「それを言ったら僕だって、前の奥さんに裏切られてから人間不信だよ。」コーチが笑った。 そっか。離婚してるんだ。 私は目をつぶって会話に集中した。 「あ、じゃがりこ発見。」お母さんがパッケージを開いて中身を口に入れて続けた。「不思議ね。あんなにお腹いっぱい食べたのに、お菓子を見つけたら思わず食べたくなっちゃう。」 「人間の欲なんてそういうものだよ。決して満たされない。一時的に満たされたとしても、またすぐに次が欲しくなるんだ。」 「終わりがないってこと?」 「部分的にはあるよ。読みたかった本を買う。読破する。みたいなね。でもまた他の本も読みたいし、本じゃない他の何かに興味を惹かれることもある。そうやって一つずつ目標を達成していくのが人生の楽しさなんじゃないかな。」 「ふぅん。じゃあ、葉山さんがいま欲しいものは?」 「純ちゃんかな。」 2人が笑った。 私は思わず目を開いた。 うちのお母さんのこと? お母さんが欲しいってどういうこと? モノじゃないんですけど。 そう、私はまだまだ子供だったのだ。
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