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空との出逢い
金曜日の夜7時、私は一人で夕食をとっていた。夕食といっても、お母さんが働いている弁当屋の売れ残りの惣菜をおかずに、白飯をぱくついていた。
テレビはつけない。
静かなところでマンガを読みふけるのが好きなのだ。
が、突然に家の電話が鳴った。
お母さんからだった。
「リナ、悪いけどさ、翔のサッカーの月謝、持ってきてくれる? 食器棚の引き出しの中。」
十月も中旬の夜は肌寒かった。
私は無心で自転車をこぐ。
私より一歳下の弟は小一の時から地元の少年サッカーチームに入っていた。
お母さんは、順番でまわってくる会計係を引き受け、今年度はちょくちょく練習や試合に足を運んでいた。
今はもう五年生になった弟は、金曜日は五・六年生チームでナイターの出来る中学校の校庭で練習している。
独特の光を放つナイターの電灯の下、コーチの叫び声や少年たちの掛け声、ボールを蹴り飛ばす音が響いていた。
「翔!パス!こっちだ!」
弟の名前が叫ばれたので、思わずそちらに目をやった。
それが、私と空(そら)との最初の出会いだった。
もちろん私の一方的な出会いである。
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