空との出逢い

1/2

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ

空との出逢い

金曜日の夜7時、私は一人で夕食をとっていた。夕食といっても、お母さんが働いている弁当屋の売れ残りの惣菜をおかずに、白飯をぱくついていた。 テレビはつけない。 静かなところでマンガを読みふけるのが好きなのだ。 が、突然に家の電話が鳴った。 お母さんからだった。 「リナ、悪いけどさ、翔のサッカーの月謝、持ってきてくれる? 食器棚の引き出しの中。」 十月も中旬の夜は肌寒かった。 私は無心で自転車をこぐ。 私より一歳下の弟は小一の時から地元の少年サッカーチームに入っていた。 お母さんは、順番でまわってくる会計係を引き受け、今年度はちょくちょく練習や試合に足を運んでいた。 今はもう五年生になった弟は、金曜日は五・六年生チームでナイターの出来る中学校の校庭で練習している。 独特の光を放つナイターの電灯の下、コーチの叫び声や少年たちの掛け声、ボールを蹴り飛ばす音が響いていた。 「翔!パス!こっちだ!」 弟の名前が叫ばれたので、思わずそちらに目をやった。 それが、私と空(そら)との最初の出会いだった。 もちろん私の一方的な出会いである。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加