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恐る恐る聞いてみた。
「しないしない。」お母さんが笑って続けた。
「区役所に行って、婚姻届を出すだけよ。」
「ふーぅん、そう。」
それからはなんだか周囲がバタバタしていた。
長男の海は中堅クラスの都立高校に合格した。
私は高校名を聞いたとき
「え、そんな頭いい高校に行くの?」と驚いた。
そして三男の陸とうちの弟の翔は、地元の公立だが、学区域のところではなくサッカー部の評判の良い中学校に二人揃って入学することになった。
三人の進学が決まると、いよいようちが葉山の家に引っ越す準備が始まった。
「リナ、苗字が葉山に変わるけどいい?」
段ボールに荷物を詰めながらふと聞かれた。
そっか、私は『葉山 里奈』になるんだ。
正直言うと複雑な心境だった。
なりたくてなるわけじゃない。
親の勝手だ。
面倒くさい。
「うん、わかった。」
とりあえず答えておいた。
だって今更嫌がったところで…。
「ごめんね、リナ。色々大変だと思うけど、幸せになろう。」
お母さんが涙ぐんでいた。
私はせっせと荷づくりを続けた。
『幸せになろう』というお母さんの言葉がずっと頭の中をこだました。
幸せって?
幸せってなろうとしなくちゃダメなのか。
みんなそんなに努力しているのだろうか。
私は自分の友達の顔を思い浮かべた。
みんな私の名前が変わったら驚くだろうな。
『さようなら、川村 里奈。』
私は心の中でつぶやいた。
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