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「記憶がない?」
言ってしまったな。
公園の鉄棒に寄り掛かる僕に、眉を顰めながらそう聞き返す彼女をみて思った。
「そう。昨日の記憶だけ、ストンと無くなってるんだ」
「……昨日の記憶ね」
記憶が無くなっていた。
朝食を食べていた僕は、不意に「昨日、何していたっけな」と考え、何一つとして思い出せない事に気付いた。
「それにしては、随分と落ち着いているね? ここにくる余裕もあったみたいだし」
「僕がこの公園に来るのは、日課みたいなもんだからな」
訝しむ彼女に、僕はそう返す。
彼女とは、公園でたまたま出会って意気投合し、いつの間にかこの時間にここで話すのが不文律となっていた。
しかし、あくまで不文律であり会う約束をした訳ではない。
それでも、記憶喪失という一応の緊急事態に、病院でなくこの公園に来た理由はこれに尽きる。
「君ならこの現象を解決出来そうな気がして」
そう言った僕に、彼女は困ったような顔を見せた。
「記憶喪失は脳外科か心療内科にいくべきだと思うんだけど。私にはその手の知識は無いよ?」
それはもちろん、僕も分かっている。彼女はただの高校生である。
しかし、彼女にはソレとは違う特別な知識を持っていた。
「そういうのじゃなくて、君は非日常的存在の事について詳しいだろ?」
非日常的存在。
つまりは、物の怪や魑魅と呼ばれる存在。彼女はそう呼ばれるものに対して、並々ならぬ熱意を持っていた。
「それは、そうだけど……」
それでも、腑に落ちない様子の彼女に続けて言う。
「記憶喪失なんて、ぶっ飛んだことは十分非日常的だよ」
少し考えた様子をみせ、僕の言葉に納得はせずとも、一定の理解を示してくれたのか、彼女は頷き口を開く。
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