記憶喪失。

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「そう、だから……。だから思い出さないほうが良いと思うの」 彼女は妙に言いづらそうに、そして視線を再び足元に落とし、そう告げる。 ――悪い現実じゃない事もあるんじゃないか? そう言おうとも思ったが、彼女の様子に僕はこれ以上踏み込むことをやめる。 「そうか、なら止めておく」 「うん」 それだけ言うと僕たちは口を閉ざした。 長い、長い沈黙。   「帰る」   僕は、そうつぶやく彼女を横目で見る、そしてやはり見て見ぬふりをした。 「うん」
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