記憶喪失。

5/5

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ● 「最低だな」 ベットに倒れこみ、白い天井を見つめ自己嫌悪する。 実の所、僕は彼女と会ったその時。   記憶を取り戻していた。 なんでも無いような顔をしながらも、赤くなって『私、君のことが好きなんだよね』そういう彼女を。 それに嬉しいなと思った自分の気持ちを。 それを忘れようとした自分も。 僕は彼女とあの公園で、他愛もないことを話すあの日常が好きだった。 愛しているといっても過言では無い。 彼女もそうだと思っていた。 だから、とは言えないのかもしれないけれど、非日常を持ち込もうとした彼女に失望した。 男女の関係になれば、友達ではいられなくなる。 それはつまり、この日常が壊れるということ。 そして僕は彼女の告白を、拒絶するでもなく、受け入れる訳でもなく、忘れる事にした。 去り際に見せた、彼女の横顔を思い出す。 「泣いていたな」  彼女は信じていなかった。この局所的で不合理な記憶喪失を。 それでも彼女は、僕のそれに現漠という理由を付けることで、自らの告白を無かった事にしてくれた。 それが彼女の心に、どれだけの傷をつけたのか分からない。今、彼女はどんな顔をして何を思っているのかも。 泣いている?怒っている?無かった事にした僕を恨んでいる? それとも、彼女も告白した事を早まったと思っていて、無かった事にホッとしていたりするのだろうか。 「そんな訳ないだろ」 都合のいい想像をしたと自嘲する。 どうせなら、ずっと忘れたままでいたかった。そうしたら、こんな自己嫌悪をする事なく、今頃のほほんと過ごせていたのだろう。 彼女の心は知れないが、僕にもわかることがある。 これから先、僕と彼女はいつも通りの時間にあの公園に行き、夢のような日常を送るだろう。 だけど、近いうちにこの日常は自然消滅する。 当然だ、既に僕たちはすれ違った。 「罰。というより因果応報かな」 日常を守るため彼女を傷付け、その結果壊してしまった。   目を閉じ、想いを告げ赤くなる彼女を思い返す。 もし、また彼女が想いを告げてくれたなら。 「いや、違うか」 今度は僕から言おう。彼女が既に、僕の事を嫌っていても言わせてもろう。 そして身勝手な僕は、取敢えずこう言って話始める。 バクが出た、と。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加