撃墜

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「時間がない。手短に話す。」  ガラスに浮かんだ人物が言った。 「これは数時間前に、おれが、おれのために記録したものだ。」  たしかに画面の男は同じ操縦席に座っている。  恰好もおれとまったく一緒であった。 「こんどの敵は、『記憶』を奪う力を持っている。おれは自分が記憶を奪われたときのためにこれを記録しておいた。きっとおれは――いま墜落しているはずだ。だが、その操縦方法もわからないのだろう。あれだけ慣れ親しんだ機体だというのに……おれの仲間もたくさんやられた。」  ここで男は不敵に笑った。 「だが、大丈夫だ。お前はおれだ。きっとうまくやれる。まず右手で操縦桿を握れ。そして左手で頭上のボタンを押すんだ。順番はそこに赤いテープが貼ってある。数字通りに押せばいい――押したか? そうしたら操縦桿の薬指と親指を強く押し込みながら、右に倒せ。それで――機体は生き返る。」  おれは、画面のおれに言われるまま、操作をした。  すると駆動音が響いた。  淡い光が計器と計器の合間をはしっていく。 「これで機密保持のため爆散する危険はなくなった。もし他のボタンをいじっていたら、すでに死んでいたよ。――さあ、ここからの操作が大変だ。いいか、一気に言うぞ。」  そういうと画面のおれは詳細な機体の立て直し方をつらつらと述べた。
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