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正直、画面の男の言ったとおりにできる自信はなかった。
おれは恐怖に駆られた。
少しでも操作を誤れば、おれは死ぬのだ。
「そうだ――フロントウィンドウの左端をみてくれ。」
画面のおれが、やや照れくさそうに言った。
見ると、小さな木製の人形が、自由落下による無重力のなかで、ふわふわと浮いていた。
「おれは女運が無くてね、彼女もいないんだ。だからおれは、敬愛するパイロットの人形をそこに飾ってある。おれの……『小さな王子様』だよ。かれは作家でもあってね。ファンなんだ。」
おれは人形をみつめた。ずいぶんくたびれている。
おそらく幼少のころからこれを大事にしていたのだろう。
そういえばなんだか懐かしい気がしてきた。
「さあ、いこうぜ相棒。やつらがいくら記憶を奪おうと、おれの全細胞に染みついた、パイロットとしての誇りまでは奪えないさ。」
おれは、画面に映ったおれの自信に満ちた表情に、背中を押された。
地面までほんの数十メートル。
あとコンマ数秒でおれは死ぬだろう。
だが――もう不思議と怖くはなかった。
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