第1章

17/34
前へ
/34ページ
次へ
僕が目覚めて半日過ぎた。 だけど思い出す事は何も無かった。 懐かしさとかすかな違和感だけはあったが、2人といると消えてしまう。 「マーティン、何か思い出す事はあったかい?」 お昼が済んで、僕達はテーブルを挟み向かい合った。 「ううん…。なにも…。」 僕は顎に手をあてて考えた。 ― クスッ その様子を見てブラウン博士は小さく笑う。 「なにか可笑しい?」 「ううん…。ただ、仕草や癖は忘れないんだなと思って。」 仕草や癖? 「本当ですわ。やっぱり貴方は貴方なんですのね。」 アリヤも一緒になって、クスクスと笑った。 もしかして、仕草や癖ってこの手のこと? 僕は顎にあてた手を離して眺めた。 「やっぱり先に知識を植え込むより、自発的に思い出す方が自然だね。」 「えぇ、そうですわね。」 ―え? 聞こえた言葉に、僕は2人を見た。 2人はそんな僕に穏やかな目を向ける。 「もう少ししたら、海に行こうか。」 穏やかで嬉しそうな、顔だった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加